home  → キャリアの隠れ家  → 第38回  5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば、長野のライバルになるというこの町は、なるほど強敵だ。
      長野に無い物ばかりが並び、眩しいほどだ。


キャリアの隠れ家

→ 第1回 東山魁夷館

→ 第2回 仕事の苦労を仲間と語り合う時間と空間、それが僕の隠れ家

→ 第3回 戸隠神社奥社参道

→ 第4回 山田温泉 “舞の道”

→ 第5回 小県郡浅科村

→ 第6回 「花屋」(おぶせフローラルガーデン)

→ 第7回 東京芸術大学大学美術館

→ 第8回 鬼のいない里、鬼無里

→ 第9回 須坂市浄運寺

→ 第10回 須坂市須坂版画美術館・平塚運一版画美術館

→ 第11回 松本民芸館

→ 第12回 古書店

→ 第13回 映画館

→ 第14回 「矢沢永吉ファンの隠れ家」ダイヤモンドムーン

→ 第15回 おいしい珈琲が飲める隠れ家 丸山珈琲小諸店

→ 第16回 全国の高校の同窓会ノートがある、東京新橋 有薫

→ 第17回 白洲次郎・正子の隠れ家 武相荘

→ 第18回 セカンドキャリアの隠れ家、「ギャラリーウスイ」

→ 第19回 旧望月町にある「YUSHI CAFE」は、昔懐かしいマランツが…

→ 第20回 東山魁夷画伯の墓前で手を合わせる…

→ 第21回 工業の町坂城にある、おししいジャムと紅茶が楽しめるジャム工場直営のアップルファーム。

→ 第22回 ようやく秋めいた9月の休日、信濃33番観音霊場…

→ 第23回 車中は、一人きりの「素」になれる貴重な時間…

→ 第24回 ライブコンサートは、仕事のストレスから「断捨離」して…

→ 第25回 新たな年の初めには、書初めがよく似合う…

→ 第26回 カウンターで一人、おいしい日本酒が堪能できるお店、「ながい」。

→ 第27回 酒器は、銘酒に欠かせない最高の小道具だと思う。

→ 第28回 「山は私を育てた学校である」と遺した恩人は…

→ 第29回 東京出張の行き帰り、往復6時間の車中の「隠れ家」が…

→ 第30回 上田市の無言館に、生きることを許されなかった画学生たちの叫び声を、聴きに行った…

→ 第31回 小布施町の「古陶磁コレクション了庵」で、おいしいコーヒーと庵主の話に時間を忘れる…

→ 第32回 10歳の時の読書体験が、その後の私のキャリア形成に及ぼした影響を考えてみる。それは、内田樹氏の…

→ 第33回 かつて「鉄腕稲尾」に憧れた野球少年が、今では、孫といっしょにバッティングセンターに通う…

→ 第34回 最近、ツイッターを始めてから、一日の時間感覚が濃くなった。「日記」より簡単な「つぶやき」だとしても…

→ 第35回 NHK教育テレビには、視聴率優先の発想では実現できそうもない番組があって、今では、私のキャリアを磨く貴重な…

→ 第36回 上田柳町の「亀齢」という地酒を飲むと、10年前、思いがけない訃報に接した親友を思い出す。お酒も、本も、仕事も…

→ 第37回 また一つ、幸せなお店との出逢い。3代続いた老舗のとんかつ屋「一とく」の店主は…

→ 第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば…

→ 第39回 私の新たなキャリアの道筋を拓いてくれた、新津利通さん。先日…

→ 第40回 親子で設立された「麦っ子広場」は、いつも楽しい音楽に包まれたNPOだ。来年は…

第38回 5月の連休を利用して、金沢に行ってきた。新幹線が開通すれば、長野のライバルになるというこの町は、なるほど強敵だ。長野に無い物ばかりが並び、眩しいほどだ。
(株)カシヨキャリア開発センター 常務取締役 松井秀夫


  確か去年の5月の連休は、東京郊外の白洲次郎・正子夫妻の無相荘に行った。今年は、北に車を走らせて、金沢に向かった。長野から250キロほどなので、高速道路で約3時間ほどとみていたが、金沢東インターまでに渋滞があり、それでも30分遅れ程度で着いた。

  インターを出て臨時の市内循環バスに乗り換える。観光シーズンのこの時期、市内は大渋滞で、駐車場探しは大変とのことだったので、少し面倒な気もしたが、やはりこの判断は大正解だった。お目当ては、金沢21世紀美術館館なのだが、途中近江町市場に急遽立寄ることにした。観光客でごったがえす狭い路地は、肩をぶつけながら歩かなければならないといえるほどの賑わい。有名店のお寿司屋さんの前は、20、30人の行列が並び、まるでお祭騒ぎのようだ。 魚好きの信州人には、きっと、堪えられないだろうな。

  観光気分を満喫して、さらにバスで10分ほど、兼六園で降りると、目の前に低層の美術館の建物と、周囲を囲む広々とした緑の一角が見えた。この美術館のうりの一つでもある建築デザインは、パリのルーブル美術館別館の、ピラミット形の奇抜なデザインで有名になった建物デザイナーが手がけたという。

  入場券を買うまでに30分、さらに人気作家の展示スペースへの入場も、行列して待たなければならない。現代美術は、観るだけでは難解でよくわからない。そこで、この美術館は、体験型の作品を多く収蔵するなどの工夫をしているようだ。中でも有名なのが、「スイミング・プール」と名付けられた作品で、プールの上に立つと、水中で衣服を着た人が遊んで見える。水槽への階段もあり、そこに入り今度は上を見上げると、逆に水底を見下す人々の姿が見えるという、楽しい仕掛けの作品だ。作家は、レアンドロ・エルリッヒという。

  美術館のスタッフはボランティアなのか?老若男女が笑顔を忘れず、ガイド役を楽しんでいる様は、混雑している館内の清涼剤のように感じた。年間100万人以上の入館者がいるというが、確かにそれだけの入場者がいれば、ガイド役としての誇りもやり甲斐もでてくるだろう。小布施町の年間観光客が100万人前後だと聞いたが、一つの美術館で小布施町と匹敵する動員力があるのだから、すごい。

  後6、7年後には、新幹線が金沢まで開通する。富山県内では、線路の橋げたの工事もずいぶん進んでいる。長野と金沢と観光客の誘客合戦がどうなるか、行政や商工団体などでもいろいろかまびすしくなってきたが、この賑わいぶりや活気をみると、長野に有利になるとは、悔しいけれど、どうにも思えない。

  長野から1時間もかからず、美味しい魚があり、世界的な文化施設が集まり、グッチやザラのブランドショッピングができる金沢は、新しい文化やファッションに敏感な長野市民にとっては、まことに魅力的に映るだろう。金沢までの新幹線の全通で、長野に欠けているものが何かをはっきりと解ることになるとは、何か皮肉な気もするのだが…。

平成23年5月16日